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東京高等裁判所 昭和49年(う)1123号 判決

被告人 大崎鋭侍

主文

本件控訴を棄却する。

当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人森美樹提出の控訴趣意書に記載するとおりであるから、ここに、これを引用するが、これに対する当裁判所の判断は、次のとおりである。

控訴趣意第二点訴訟手続法令違反の主張について、

一、所論は、原判決がRS―7型レーダースピードメーター速度測定カード添付の「速度記録紙」中被疑車両特定に関する車両No.一四四八、特徴クラウン、六月二〇日一一時四五分と記載した部分を証拠としたことは、証拠能力のない書面を証拠としたもので、違法である、という。

然し、所論の速度記録紙中被疑車両の特定に関する記載部分は、本件被疑車両の捜査に従事し、レーダースピードメーターの記録係をしていた巡査後藤凌一が視覚により認識したところを記載したもので、刑法三二一条三項の書面に当る書面として、同項所定の要件を充足すれば証拠能力を与えられるものと解すべきところ、右速度記録紙については、原審はその第二回公判期日において、その作成者たる後藤凌一を証人として取り調べ、その作成の経過について尋問し、真正に作成されたものである旨の供述を得たうえ、これを証拠として採用したものであることが認められるのである。そして同書面の真正の立証については、右後藤凌一の証言を以つて必要にして足りるものというべく、原審が右速度記録紙中所論の記載部分を証拠としたことに何らの瑕疵は存しない。論旨は独自の主張であつて採用できない。

二、所論は、本件スピードメーターの精度には疑問があるのに、これに基づく速度測定結果を証拠としたことには、採証法則違反がある、という。

なるほど三菱電機株式会社代理店神奈川電気株式会社作成の本件レーダースピードメーターの点検成績書には所論の記載があるが、確度の評価は、綜合して良の記載があり、司法巡査後藤凌一外一名作成の捜査報告書によれば、本件レーダースピードメーターは昭和四八年三月八日その確度検査をしたところ、正常に作動していたこと及び原審証人後藤凌一の証言によれば、本件取締開始前試験用スイツチにより本件のスピードメーターの作動状況を点検したところ、異常を発見できなかつたことが認められるのである。しかも、当審における証人熊沢和与の証言によれば、所論引用のスピードメーター検査成績書に所論の点についての記載を欠くのは、当該部品が本件のスピードメーターの構成部分となつていなかつたため検査対象とならなかつたことが認められるのである。従つて、原判決が本件スピードメーターによる速度測定結果を措信したことについて、所論の瑕疵は存しない。

同第一点事実誤認の主張について、

所論は、被告人は指定制限速度内で走行していたもので、原判示の如くこれをこえ時速六二キロメートルで走行していた事実はない、というのである。

記録並びに原裁判所が取り調べた証拠を検討してみるのに原判決がその挙示引用の証拠により原判示事実を認定した措置は、十分首肯できるものというべきである。

所論は、先ず、本件の検挙に当つた司法巡査後藤凌一のレーダースピードメーターによる速度測定は、同巡査がこの方法による速度測定に未熟であつたが故にその測定結果は措信できない、というが、同巡査は特殊無線技師の資格を有し、レーダーによる取締の資格を備えた者であることが、関係証拠上認定できるのであるから、所論は根拠のない主張というべく、次に、所論は、右後藤は、道路から四メートル位中に入つた所に位置していたものであるから、その位置から被告人車を約二〇メートルの距離をおいて発見したという同人の原審における供述は信用できない、というが、原審並びに当審における証人後藤凌一の各証言によれば、速度測定器を設置した場所は原判示道路の送受信用のアンテナを設置した場所から幅員三・二メートルの道路の中に約四メートル、原判示道路から約二・五メートルそれぞれ中に入つたところで、後藤は右測定器のところに位置していたが、同人は同所から一メートル位の範囲内で移動し、原判示道路側に身を乗り出し速度違反車両の発見に当つていたこと、当時同人が位置していた場所から原判示道路の高尾方向に向つて約二〇メートルの距離が見とおせたことが認定できるのであるから、この点の論旨も採用できない。そして、右証言によれば、後藤は、当時レーダースピードメーターを毎時六〇キロメートルに設定し、それを超えて進行する車両があれば、同測定器のブザーが自動的に鳴るよう装置していたところ、同巡査の位置した場所から二〇メートル位の手前の所を目測で時速六五キロメートル位の速度で疾走してくる車があるのを認めると同時に、前記ブザーが鳴り始めたので、速度超過の車であることを確め、その車体の色と車両番号を確認し、停止係に通知し停車させたこと、当時その違反車両に先行する一台の車があつたが、その車は測定距離及びレーダー射角の範囲外にあり、他に当時右違反車両には並進車並びに対向車はなく、レーダースピードメーターによつて違反車両として検認される車両は本件違反車両以外に存在しなかつたこと、そして、右違反車両の車体の色は白で、普通乗用車クラウン、車両番号は一四四八、すなわち停止係によつて停車させられた被告人車であつた事実が認定できるのである。なるほど、記録上同巡査が違反車両前部のナンバープレートを確認せず、車の屋根の色について正確に認識するところがなかつたことは所論のとおりであるが、同巡査は車種、車体の色、並びに車両後部のナンバープレートにより車両番号を確認し、被告人車との同一性を判断しているのであり、右違反車両、すなわち被告人車が毎時六二キロメートルの速度で原判示道路を進行していたことは、原判示速度記録紙の記載により明認できるのである。所論は結局独自の主張というべく、記録を精査してみても、原判決の原判示事実の認定に誤認を疑うべきかどは認められない。論旨は理由がない。

よつて、本件控訴は理由がないので、刑訴法三九六条に則りこれを棄却することとし、当審における訴訟費用は同法一八一条一項本文により全部被告人に負担させることとし、主文のとおり判決する。

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